深海航行記

海流の行き着く先

PSYCHO-PASS SS Case.2 First Guardian システムのなかの政治のあらわれ

劇場に観に行くつもりはあんまりなかったが、征陸役の有本欽隆さんが亡くなられたと聞き、追悼の気持ちで劇場に足を運んだ。

だが、作品としても劇場に観に行ったことは正解だった。 本作は、psycho-passのファンへの優れたサービスであると同時に、作品世界を広げる一つの試みでもあると感じた。以下感想。

本作が描くものは執行官・須郷の過去。彼がいかにして執行官となったのかが語られる。 かつて国防軍に所属していた須郷。あるとき、彼に対してテロ事件の容疑がかかる。事件の担当は監視官・青柳と執行官・征陸。彼らとの出会いが、須郷の信条や進路に影響を及ぼす。

重要な登場人物が次々に死んでいく/去っていくこの作品において、アニメより過去の時間軸が描かれる意味は大きい。 すでに過去の人物となってしまった登場人物たちの活躍は、観る人に鑑賞と享楽を提供する。 実際、私は公安局の一員として事件に取り組む、青柳や征陸、縢、狡噛たちの姿には強い感慨を覚えた。

だが、こうした過去の時系列を描き出すことは作品が単なるファンムービー的なものに押し込めてしまいがちにもなる。「現在」の設定に影響を及ぼさないように過去を描けば、おのずと無理なストーリー構築はできない。しかも、今回の劇場3部作は、もともとファン向けの劇場作品でもあるわけだから、世界観を広げるような挑戦を取ろうとする発想は生まれにくいように思う。コンテンツとしてはコアなファンを守ればいいわけだから。

しかし、本作は、そうしたファンムービー的な作品とは一線を画し、psycho-passの世界観を広げることに成功している。しかも、設定の後付け(実際にはそうであるのだろうが)的な無理のあるものではなく、psycho-passの世界観を補強し、より深みのあるものとしている。

国境を守る国防軍の存在。須郷に対して大友が提起する、シビュラシステムによって認められた戦争とサイコパスの関係性。
シビュラシステムを傘下に収め、絶大な権限を有する厚生省と、その他の省庁の管轄争い。

特に後者の観点は、これまでの作品全体を通して、初めて政治が描かれたという意味で印象的だった。また外務省から人事交流で1係に派遣されるなど、今後の作品世界への足掛かりになりそうなテーマである。 外務省管理区域においてシビュラシステムが機能しないところなどは、両者が険悪な雰囲気にあることを象徴している。現実世界で厚生労働省と外務省は対立するような政策領域は見えにくい。例えば、前の劇場版で描かれていたように、シビュラの輸出により、国外に権限を伸ばしたい厚生省と、国防の管轄を厚生省に奪われたくない外務省による政治的対立があるのだろうか。

アニメ版ではシビュラシステムの無謬性に視点が集中し、その他の社会、社会システムや、公安局以外のそこに生き、働く人々の描写が弱かっただけに、このあたりをさらって見せた今作は、作品として重要な位置を占めるのではないか。