深海航行記

海流の行き着く先

逆流とコーヒーブレイク

コーヒーを飲み終える。匂いたつ上品な香りと、ほのかに残る爽やかな後味。それらとともに私に訪れたものがある。 そう。胸やけである。

胸の奥からこみ上げてくる苦みと酸味。端的に言えば、気持ちが悪い。机に常備してある太田胃散に手を伸ばす。いつのころからだろう。コーヒーを飲むと胸やけを引き起こすようになってしまった。

ここでふと手が止まる。胸やけって一体なにものだ。胸のある臓器といえば、心臓と肺である。しかし、コーヒーは胃に入ったはずではないのか。なぜ胸が気持ち悪いのか。

早速google先生に問い合わせる。私は提案された結果に思わず目を見開いた。

逆流性食道炎

胸焼けとは、

 「胸の真ん中あたりがチリチリと焼けつくように感じる」

 「酸っぱい水があがってくるような感じがする」

 「胸がムカムカする」

といったような症状を指し、その原因は主に胃酸が食道に逆流することによっておこる逆流性食道炎という病気でおこります。

https://sugamo-ichou.com/%E8%83%B8%E3%82%84%E3%81%91%E5%A4%96%E6%9D%A5

「食道炎」ですよ。「逆流性」の。知らなかった。 ここで私が言いたいことは次の2点に集約される。

痛めていたのは臓器ではなく食道であること。胃に入ったコーヒーが心臓や肺を痛めつけるはずがない。

そして、重要なのは2点目。「逆流性」がかっこいいということである。胃酸の逆流。何人も抗うことのできないはずの重力の流れ。「彼」はあっさりと振り切り、出口(入口)へと向かおうとする。ささやかなポロロッカだ。懸命に逆流する彼。でもたどり着くことができない。目の前に出口はあるのに。最後の力を振り絞るかのように、彼は手近な壁をつかみ、しかし、留まることは叶わず、落下していく。

気持ち悪いからやめてほしい。食道を荒らすとは迷惑なことである。太田胃散を飲もう。

しかし、胃酸が逆流していたとは。誰かに伝えたくなった。そうだ。誰かとコーヒーを飲みに行こう。そして私は語りだすのだ。「君は考えたことある?逆流する『彼』について……」